宮城庸(35) M大文学部教授
忍チンが 風邪を引きました。
いつもとなんら変わりない自らの仕事をある程度片づけ、いつの間にかかなり肌寒く感じるようになった風に身を縮めながら、宮城は帰路へ付くため車に乗り込もうとした。
「ん?」
その手を止めたのはコートのポケットに入っているマナーモードにしていた携帯だ。
携帯を開く前にバイブは収まり、待ち受けを開くとメールが一件との知らせが目に入る。
そのメールの件名は忍だった。
『今ここ?帰る?』
「…なんだこれは」
微妙に文章のおかしいメールを見ながら、宮城は首をかしげる。
普段からメール、基普段の口調からして普通ではない忍なのだが、一段として意味の通らない内容に苦笑する。
とりあえず今は大学にいて帰るところだ、という旨を返信したがメールは返ってこなかった。
──ガチャリ
朝、出かけるときにちゃんと閉めたはずの扉があいていたので、また忍がかけ忘れているんだとため息をつく。
「ただいま。
おい、ちゃんと鍵はかけとけって言ってるだろ」
そういいながらコートを脱ぎリビングへと足を運ぶが、そこには忍の姿がなかった。
忍がいるのなら暖房も付いているだろうと思っていたのだが付いてはおらず、部屋は冷え冷えとしている。
…便所か?
まぁいいか、とリビングにいない忍のことについては深く考えず、スーツを着替えるべく寝室へと向った。
「ぅおっ…!」
明りを付けた途端目に入ったベッドにある不自然な膨らみに気付いた宮城は、声をあげて飛び上がった。
ベッドのまわりにはブレザーとコート、靴下が脱ぎ散らかされていて、大体予想はできていたがそれらからその膨らみが忍であることを確信する。
こいつは人んちのベッドで・・・。
今さらそんなことで文句をいうのも何だというような気がしたが、これはマナーの問題だ。
「な~に~、してんだ!!」
布団の裾をつかんで一機に引きはがすと、中から丸まった忍が出てくる。
布団がなくなったことにより一機に回りの温度が下がったからだろう。
体を震わせて、余計に丸まった。
「お前はなんでそんな格好のまま人んちのベッドに・・・」
「べくしゅんっ!」
宮城の言葉を遮るように、一際大きなくしゃみを忍が発した。
かと思うとどことなく赤い顔でこちらを睨むような目つきで見上げてくる。
「返せ」
これには宮城もカチンときて、忍が伸ばしてきた手が届かないように布団をさらに遠ざけた。
「誰が返すか!
だからお前は何で・・・」
「べーくしゅんっ!!」
さきほどのくしゃみが一際大きかったのではなかったらしい。
忍はまたくしゃみをして身震いをすると、宮城から布団を取り返すのを諦めたらしく、また丸くなる。
ここの寝室もリビング同様に暖房がかかっていない。
温まった布団の中はさぞかし温かかっただろう。
それでだろうか?
忍は小さく震えている。
「お前、もしかして風邪でも引いたのか?」
「…風邪は…ひいてない」
「さっきでかいくしゃみかましてたじゃねーか」
「…少し熱が…あるだけだ」
「はっ?」
慌てて背中を向ける忍の額に手を持っていくと、かなり熱い。
手が冷えていることもあって、比喩表現の“燃えるように熱い”というのが使えそうなほどに熱かった。
聞こえてくる息遣いも、いつもより確実に荒い。
「おま・・っその症状を正しく風邪と言うんだ!熱があるなら早く言えよっ!
ってか連絡くれれば俺が行ったのになんでわざわざこっちにきたんだ!」
はっと布団を取り上げていることを思い出して忍にバサッと被せる。
これだけでは寒いだろうと思って、しまってあった布団も2枚ほど出して上に被せる。
「ばーか…。
わざわざ看病させに…部屋に呼ぶか」
忍・・・。
と感嘆に浸りそうになってふと思い至る。
こいつは看病させに部屋に呼ぶことはないのに、なぜ人の部屋のベッドで寝ている!
その答えは、すぐに知れた。
「俺の部屋…、薬とか…なんもねーから。
看病されに…来てやったんだよ」
・・・・・・オカシイだろっオイ!
忍のコレにも、もうなんだか慣れてしまった気がする。
宮城はまた、ため息を一つつくと暖房のスイッチを入れて自分の着替えを済まして忍が脱ぎ散らかした制服とコートをハンガーにかける。。
それからふと、忍が制服のままで寝ていることに気づく。
しかたなく、忍にはかなりサイズの大きいであろうスウェットを取り出すと、忍の肩を揺らした。
「おい、その格好のままだと寝苦しいし、制服しわになるだろ。
とりあえずコレに着換えろ」
「面倒くさい」
「…いいから着換えろ!」
無理やり忍を起こすと、忍はしぶしぶといった顔で着替え始めた。
「…こんなもんか?」
とりあえず寛大なる態度の病人のために消化のよいものを作ろうとし、できたのが雑炊だった。
しかし具が卵だけ、というのも栄養面的にどうかと思うので野菜を入れたほうがいいだろう、と思いつく。
宮城は冷蔵庫を開けた。
宮城は冷蔵庫を閉めた。
忘れてた。
俺の冷蔵庫はキャベツ畑だっんだ…。
ないよりはましかと思ったが忍が依然キャベツが嫌いだと言っていたことを思い出してやはりやめ、市販の風邪薬と水とと一緒にお盆に載せて、忍のいるベットへと向かう。
「飯できたぞ。
なんか食わんと薬飲めんから、とりあえず食え」
言いながら歩みよったが、忍からの返事はない。
寝ているのか?と思ってこちらに背を向けている忍の顔を覗き込むと、穏やかに寝息を立てていた。
「…せっかく作ってやったのに」
仕方なくそれをサイドテーブルに置くと、すっかり冷却機能を失った冷却シートを額からはがして丸め、ゴミ箱へと捨てた。
変わりに宮城は手を当てると、最初に触った時よりずいぶんと戻っていたので少し安心する。
近くに置いてあった救急箱から新しいシートを取り出す。
「まったく。
一人じゃどーしよーもできねー癖に、一人暮らしなんてしようとするか?普通」
さらさらとした色素の薄い髪をかき上げながら、ゆっくりとそれを張り付ける。
冷たさに反応してか忍は少しだけ声を漏らして寝返った。
「俺がいるから…か」
布団を掛け直すと。また寝返りを打って今度はこちらを向いた。
いつもの反抗的な意思のようであったり、物事を上から見ているような生意気な目を閉じているからだろうか。
若干赤みを帯びた顔は幼く見えて、余計に自分との年の差を感じさせる。
こんなんと付き合っていていいのだろうか…。
宮城はふーっと息を吐いてその場に座る。
“こんなん”とは、忍のことではなくて、忍から見た宮城のことだ。
忍の場数を踏んでいない人生経験の中で出会った人間なんて数も知れている。
その中で勝手に宮城を特別な人間だと思い込んでいるだけで、もしかしたらこれから先に、忍にとってもっと大切で必要な人間が現れるからもしれない。
…そういう時は潔く別れてやるしかないよな。
大人なのだから。
そう、俺は大人だ。
だけど、本当に俺は諦め切れるのだろうか?
昔、酷い恋をしたことがあった。
それは本当に昔の話なのに、こんな年になるまで引きずっていたのだ。
この年でまた引きずる様な事があれば俺は…あまり考えたくない。
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はちゃっすYUKIです♡
学習能力のなさがYUKIの売りなんで
今回も5ooo字オーバーで
あっけなく前篇後篇に分ける結果となりました~
いやー。。。申し訳ない♡←non反省
あっ先に言っておきますが
今回のお話は
健全な小説ですっ!!ハイっ!!!←
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